広がる学び

[コラム]「食と健康関係学」の講義を振り返って

農医連携教育プログラムの推奨履修科目にもなっている「食と健康関係学」という講義が、今年から行われています。1単位の科目ですので8回だけの講義ですが、初年度とあってどんな内容にしたものかと思案しました。対象となる3年生諸君は、2年生のときに「食品科学」や「食品機能安全学」等の科目で、「食」に関する基本的なことを学んでいます。さらに発展的あるいは高度な内容を講義することも考えましたが、私たち動物資源科学科の学生諸君の興味は多様で、食品にかなり関心をもつ学生も多いのですが、そうでもない学生諸君も少なからずいます。そんなことも考えたうえで、知識の提供中心とする形式は採らずに、学生諸君に考えてもらう作業を大幅に取り入れました。かねてより、「食と健康」や「食と安全」といった問題は、ひとりひとりが関心をもって考えることが大切だと思っていました。
 
 毎回の講義は、重要と思われる今日的な話題を取り上げ、0907_fig090728_1最初に背景などを含めて簡単な解説をしました。よく言われていることですが、最近の学生諸君は新聞をあまり読まないので、かなり大きな問題でも、「エッ、そんなことも知らないの!」ということがしばしばあります。就職試験の面接のときなどに困ったりすることはないのだろうかと、いつも心配してしまいます。一通り解説を終えた後に、当該トピックスに関係する新聞や雑誌の記事を配布し、それを参考にして講義時間内でレポート(小論文)を書いてもらいました。

 今年の講義では、「食卓の危機」、「クローン牛生産の是非」、「サプリメントとの付き合い方」、「ペットフードの安全性」、「安易な食品開発」、「食料自給率向上の必要性」、「食育の大切さ」をテーマとしました。当初、提出してもらったレポートはすべて添削して次回の講義の際に返却するつもりでした。しかし、100枚以上のレポートに目を通すことはかなりの時間を要したことと、予想していたよりもずっとしっかりとした内容のものを書いてくれたこともあり、添削という作業は必要ないように感じられました。誤字・脱字だらけのレポートやいい加減な内容のものはほとんどありませんでしたし、そもそも内容については正解があるものではありません。そこで、典型的な意見を展開しているレポート(たとえば、「クローン牛生産に賛成」あるいは「反対」)やユニークな考えを示して0907_fig090728_2いるもの、そして論理的な構成がしっかりしているものなど、8名程度のレポートを選び、それを次回の講義の際にコピーを配布し、私がコメントをするという形にしました。

 講義の最終回にアンケートを書いてもらいましたが、割合と好評だったのは幸いでした。多くの学生諸君にとって長い文章を書くことは骨が折れたようでしたが、「1週間の講義の中で一番たいへんだったが、充実した作業でもあった」というようなことを書いてくれた学生も多く、総じて言えば好意的に受け入れられたと判断しています。来年以降の講義形式は思案中ですが、学生諸君に考えてもらうことを基本として、もう少し双方向性の高いやり方はないかと思っています。受講学生数が多いので教室内での議論はなかなか難しいのですが、何かよい方法を探すつもりです。動物資源科学科の農医連携教育プログラムそのものが始まったばかりの段階ですが、「高度な知識や技術を身につけた」人材を養成するだけでなく、「自ら考えて問題解決できる」あるいは「自ら問題を見つけ出す」トレーニングを積んだ人材を送り出すことも非常に大切だと思っています。

                                             担当 食品機能安全学研究室
                                             教授 有原 圭三
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